こんな内容について語っています
- 「大丈夫です」という返事の裏に隠れている、本当の意味
- 心理的安全性をつくる2つの土台:信頼の積み重ねと、リーダーからの自己開示
- 「困っていることある?」ではなく、答えやすい質問に変える具体例
- 沈黙を怖がらず待ったことで、妻から本音が出てきたエピソード
- 本音を話してくれた直後の対応が、次の1on1の質を決める理由
対談内容(全文)
遠藤隆弘 × 石上峻
皆さんこんにちは。クリニックアカデミーの石上です。今日も遠藤さんと、いろいろなテーマについてお話しできればと思います。それでは遠藤さん、よろしくお願いいたします。
はい、よろしくお願いいたします。
今日は、院長先生やリーダーの方が「何か困っていることはある?」「最近調子はどう?」と聞いても、「いや、別に」「特に大丈夫です」という返答で言葉のキャッチボールが生まれない、というご相談をよくいただきます。どうすれば本音を引き出せるのか、遠藤さんにお話を伺えればと思います。よろしくお願いします。
わかりました、よろしくお願いします。今日は1on1の中でもとても大切な、「どうしたらスタッフが本音を話してくれるのか」についてお話ししていこうと思います。
院長先生やリーダーの方が、スタッフと面談するときに「最近どう?」「何か困ったことある?」「何か悩んでる?」と聞くことがありますよね。そうすると、「特にありません」「大丈夫です」と、質問の意図とかみ合わない返事が返ってくることがあります。そして後になって、「実は悩んでいました」「人間関係で困っていました」「辞めようと思っています」という話が出てくると、院長先生やリーダーからすると「え、あのとき聞いたのに」と思ってしまいますよね。
ここで知っていただきたいのは、聞いたからといって本音を話してくれるわけではないということです。「何か困ってる?」という聞き方だけでは、本音はなかなか出てきません。
院長先生から突然「何か困ってる?」と聞かれたとき、スタッフの立場になってみてください。これを言って大丈夫かな、悪く思われないかな、こんなことで悩んでいると思われたくないな、誰かの悪口になってしまわないかな、自分の評価に影響しないかな。そういったことを瞬間的に考えてしまうんですよね。だからこそ、「大丈夫です」という言葉になってしまう。この「大丈夫です」は、本当に問題がないという意味だけでなく、「まだここで話していいかどうかがわからない」という状態を表していることもあります。
本音というのは、質問の上手さやテクニックだけで出てくるものではありません。その前に何より大事なのは、「この人の前でなら、自分を飾らなくても、無理をしなくても、話しても大丈夫」という安心感です。これが心理的安全性の大きな要素の一つだと思っています。
なるほど、ありがとうございます。では、その心理的安全性はどう作っていけばいいのでしょうか。何が必要なんでしょうか。
そうですね、2つあります。一つは、人間関係というのは信頼と理解を積み重ねることだと思うんです。信頼と理解を積み重ねて、「この人なら大丈夫」と思える安心感を届けることが、人間関係の本質だと思っています。まずこれは、日常の何気ないところからコツコツ積み重ねていく必要があります。
もう一つ大切なのは、院長先生やリーダーの方から自己開示をするということです。自己開示とは、例えば「最近、スタッフの皆さんにちゃんと自分の気持ちが伝えられているかどうか悩んでいる」とか、「実はこれを伝えたら嫌われてしまうんじゃないかと思って、今も言えずにいることがある」といったことを話すことです。そうやって自己開示をすることで、「院長先生もリーダーも完璧じゃないんだ」と伝わります。人なので悩むし、迷うし、わからないこともある。それを見ることで、「完璧じゃなくてもいいんだ」という安心が相手の中に生まれます。
クリニックアカデミーの講座を受けて、自分自身が変わろうとしている方で、最初「何をやったらいいかわかりません」と言う方によくお伝えするのが、決意表明と自己開示をしてみませんか、ということです。「自分はこれからこういうふうに変わっていこうと思っている。でも、変わっていくためには、こういうところが怖くて、今まで変われなかった。けれど、これからはこう変わっていこうと思っている」という自己開示をすることで、人はとても安心感を受け取り、「自分だけじゃないんだ、悩んでいるのは」と思えるようになります。目の前の人が先に心を開いてくれると、自分も少し話してみようかなと思えるものなので、自己開示はとても大事だと思っています。
まさにその通りだと思います。僕自身の経験としても、リーダーとしてちゃんとしなきゃ、いいことを言わなきゃと思っているときの方が空回りしていて、むしろ自己開示をしたときの方がチームとしてもうまくいっていました。改めて、そこが大事だったんだなと感じました。
自己開示するのは勇気のいることでもありますよね。心の中で葛藤があったりすると思うのですが、それを一歩ずつ乗り越えていくために、まずはこういうことをやったらいいというものがあれば、ぜひ教えていただきたいです。
自己開示は、どんなときにできるのか。それは、世界を信頼できるようになったときにできると思うんです。それはつまり、自分自身の信頼も積み重ねるということになるので、全体にいきなり自己開示するのが難しければ、まずは近しい人に、「実はこうで、こういうところが怖くて、一歩踏み出せなかったんだよね」と話してみる。それだけで、相手から「そんな○○さんでも大丈夫だよ」とか「僕はこう思っているよ」という一言があるだけでも、全然変わっていきます。いきなりみんなに自己開示ができなかったとしても、信頼のおける人と一緒に自己開示をしてみる。そういうことをやっていくのがいいんじゃないかなと思います。やっぱり、普段の何気ない会話や対話から信頼を積み重ねていることが何より大事です。
そうやって信頼を積み重ねていると、「これはちょっとやりにくいな」「自分の恐れに気づいてしまったな」というときにも、話しやすくなります。先日、二日間のスタッフ研修をやったのですが、最終日のフィナーレで、ある女性の常長の方が自己開示と決意表明をされて、すごく感動的なフィナーレになりました。「これを言ったら嫌われるかもしれない」「否定的に思われたくない」と思っていたことも、実際に言ってみるとそんなことはなかった。その経験が、成長していくきっかけの一つになるんじゃないかと思います。自己開示は、本当に大事ですね。
自己開示が終わり、信頼と理解が積み重なった先でも、スタッフに「何か困ってる?」と聞くだけでは、まだ答えにくいものです。そこで、質問を変えてみるといいと思います。「最近、仕事をしていてやりづらいと感じることはある?」とか、「今のクリニックで、もし一つだけ変えるとしたら何を変えたい?」というふうに聞くと、相手も話しやすくなります。困っているか困っていないかではなく、具体的な場面を思い出してもらって、それを聞いていくことが大事です。
もう一つ大切なのは、聞いたときにすぐに答えを求めないことです。「特にないです」と言われても、今すぐ思いつかなくて大丈夫。何かあったときに話してほしいと伝えればいいんです。そして一番大事なのは、沈黙を怖がらないこと。沈黙があると、何か話さなきゃという気持ちになりますが、相手の表情や目の動きを見ていると、「あ、今、何か考えているんだな」とわかってくるものです。自分のペースと相手のペースが違うことはよくあるので、考えている時間をしっかり渡してあげることも、安心感につながると思います。ぜひここを大切にしていただけたらと思います。
はい、ありがとうございます。遠藤さんの、その
間を取る、ということですね。
間を取る。そうですね、それは遠藤さんの中でどんなふうに考えていらっしゃるんですか?
僕は以前、解決型の1on1のスタイルが多くて、それによってスタッフたちの心を置き去りにしているような組織を作っていました。本当に成果主義というか。
あるとき、カウンセリングを学んで、「その人の世界を理解することが大事だ」という話を聞き、妻が話し終わった後も少し待ってみようと思ったんです。妻が話を終えて、それを待ってみました。30秒ほど、うなずきながら妻を見ていると、妻はふと上を見たりこちらを見たりしながら、また考え始めました。そこからまた30秒ほど経って、次の話が出てきました。また話が途切れて、次の言葉が出てくるまで待とうと思ったら、今度は1分、2分ほどずっと考えて、また話し始めました。何回かそれを繰り返したときに、最後は妻から感情の話が出てきたんです。感情の話が出てきて、「ここまで来るとこういう話が出てくるんだな」と思いました。その会話が終わったとき、妻が「今日のこの時間、すごく良かった」と言ってくれて、なるほどと。自分は、相手が息継ぎをしていたり考えていたりする時間に、自分から話しかけてしまっていたんだなと気づきました。
僕はもともと後発的に傾聴を身につけた人間なので、皆さんにもできると思っています。そしてやはり、本音を話してくれた後が一番大切なんです。
スタッフの皆さんが勇気を出して、「実は○○さんとの関係で少し悩んでいて」というふうに話してくれたその瞬間に、「でも、それはあなたにも問題があるんじゃない?」というふうに返してしまうと、シャッターが降りてしまいます。まずは「そうだったんだね」「話してくれてありがとう」「そんなふうに感じていたんだね」と受け止めてあげることが大切です。受け入れなくてもいいので、受け止めてあげる。本音を話してくれたときに、その本音をどう扱ったかが、次の1on1の質を決めていきます。
本音を言ったら拒否された、否定された、評価が下がった、すぐに正論を言われた。そういうことが続くと、スタッフは「本音を言わない方が安全だ」と学習してしまいます。そうなると、本音はやはり閉ざされてしまうので、本音を聞いた後のスタッフとの関係性を大切にしてもらえたらと思います。
本当に思い当たる節だらけです。遠藤さんに傾聴や対話について学ばせていただいた後、実際に練習するんです。徐々に待って聞けるようになったのですが、本音が出てくると「これは解決できる」という論調になってしまって、正論や解決志向の話し方になってしまう。すると、どんどん相手の表情が曇っていく、という経験を何度もしました。今のお話を聞いて、そのときのことを思い出して、思わず笑ってしまいました。
やっぱり、正論では人は動かないからね。
動かないですね。
まとめになりますが、心理的安全性とは、何を言っても許される環境ではありません。私は、心理的安全性とは「本当のことを話しても、この人との関係性は壊れない」と思える関係性を作っていくことだと思っています。そんな関係を院長先生やリーダーとスタッフの間に作っていく。そのために大切な時間が、1on1なんじゃないかと思っています。
はい。遠藤さん、ありがとうございます。
ありがとうございました。
本音を引き出す1on1は、質問の技術ではなく、日々の信頼と自己開示から生まれます。
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